フィリピンで働く日本人の間で、「フィリピン人は働かない」や「仕事が適当」という話をよく耳にします。
また、「すぐ辞める」、「遅刻や休みが多い」、「ミスに対して謝らない」や「言い訳ばかりする」と言う話も聞かれます。
しかし、これらの話は本当なのでしょうか?
それがフィリピン人の国民性や価値観が原因ならば、フィリピンで働くことはものすごいストレスが溜まると思います。
そこで今回はフィリピンで10年間日系企業で働いてきた筆者が、フィリピン人の仕事に対する価値観や働き方についてご紹介します。
フィリピン人の働き方と家族への責任感
フィリピンは、働かなくても生活できる国と言われることがあります。
しかし、それは本当でしょうか?
実は、フィリピン人は家族を大切にする国民性を持っており、働くことができない子供や老人だけでなく、働けるのに働かない親戚や友人の世話もするのです。
これは、フィリピン人にとってObligation(責任)という感覚が強いからです。
一方で、そんな身内を養うために一生懸命働いている人もたくさんいます。
そのため、フィリピンで働くにあたり、日本人はフィリピン人の働き方と家族への責任感について理解する必要があります。
フィリピン人の仕事ぶりと経営側の役割
フィリピン人は仕事が適当だというイメージを持たれることがありますが、本当にそうでしょうか?
実際には、フィリピン人には真面目で勤勉な人も多くいます。
彼らは家族や親戚を養うために長時間働いたり、休日や自宅でも仕事をしたりします。
彼らは仕事に対して責任感ややりがいを持っており、日本人と価値観が似ていると言えます。
しかし、そうではないフィリピン人もいます。
彼らは仕事中におしゃべりや居眠りをしたり、仕事の質や量に気を配らなかったりします。
このようなフィリピン人の仕事ぶりは、国民性や文化の違いだけでは説明できません。
実は、フィリピン人の仕事ぶりは、経営側が作る職場の環境や仕組みに大きく影響されます。
経営側が従業員に対して明確なルールや教育を提供し、適切な評価や処罰を行うことで、従業員のモチベーションやパフォーマンスを高めることができます。
また、優秀な従業員を見つけて育てることで、組織の管理能力や指導力も向上します。
このように、経営側が職場の環境や仕組みを整えることが、フィリピン人の仕事ぶりを改善するための重要なポイントです。
そのため、「フィリピン人は働かない」や「仕事が適当」なのはフィリピン人のせいではなく、経営側の問題だと言えます。
フィリピン人の遅刻や欠勤の原因と対策
フィリピン人は遅刻や欠勤が多いというイメージを持たれることがありますが、それはなぜでしょうか?
実は、フィリピン人は家族を最優先にする国民性を持っており、家族の誕生日やイベント、病気やケガなどで仕事を休むことが多いのです。
これはフィリピンの文化や価値観に基づくものであり、有給休暇の範囲内であれば、職場で理解してあげるべきだと思います。
私もフィリピンで働く日本人として、自分の家族のために有給休暇を使うことがありますし、フィリピン人の従業員も同じように大切な人のために休むことは権利だと思います。
ただし、有給休暇の数を超えて休んだり、遅刻を繰り返したりする人もいます。
これは仕事に対する責任感やプロ意識が低いことを示しており、職場で許されるべきではありません。
しかし、フィリピンの職場では「Consideration(配慮)」という言葉がよく使われます。
「Consideration(配慮)」とは、遅刻や欠勤などで規則に違反した従業員が、「今回だけ許してほしい」と頼む時や、管理者が厳しく処罰することをためらう時に使われる言葉です。
なぜ管理者が処罰することをためらうのかというと、その従業員が家族や子供など自分も大切にする理由を挙げているからです。
また、女性従業員は涙を流して「Consideration(配慮)」を求めることもあります。
このような状況に直面した時、フィリピンで働く日本人も「Consideration(配慮)」をするかどうかで迷うかもしれませんが、私は基本的に「Consideration(配慮)」をするべきではないと思っています。その理由は、以下の通りです。
- 「Consideration(配慮)」をすると、規則が形骸化する恐れがある。一度許してしまうと、次回も同じような理由で「Consideration(配慮)」を求められる可能性が高くなります。また、他の従業員も同じように規則を破ることが許されると思うかもしれません。これでは規則が意味をなさなくなります。
- 「Consideration(配慮)」をすると、規則を守っている従業員に不公平になる。規則を守っている従業員は、「Consideration(配慮)」をされた従業員に対して不満や不信感を抱くかもしれません。これでは職場の雰囲気やチームワークが悪化します。
- 「Consideration(配慮)」をすると、会社に不利益になる可能性がある。遅刻や欠勤が多い従業員は、仕事の質や量に影響を与えます。また、解雇された従業員が会社に対して訴訟を起こすこともあります。これでは会社の業績や信用に損害を与えます。
そのため、「Consideration(配慮)」をするのではなく、規則を守れない従業員に対しては、社内規則や労働法に基づいて、適切な警告や処罰を行うべきだと思います。
これは、フィリピン人の国民性や文化を無視することではなく、仕事に対するプロ意識や責任感を高めることです。
また、規則を守っている従業員に対しては、適切な評価や表彰を行うことで、モチベーションやパフォーマンスを高めることができます。
さらに、優秀な従業員を見つけて育てることで、組織の管理能力や指導力も向上します。
このように、フィリピン人の遅刻や欠勤の原因と対策は、経営側が職場の環境や仕組みを整えることにかかっています。
フィリピン人の離職率を下げる方法とは?
フィリピン人はすぐに仕事をやめるというイメージを持たれることがありますが、それは本当でしょうか?
実際には、フィリピン人は仕事をやめる理由や時期は様々です。
私もフィリピンで働く日本人として、100~200名のフィリピン人の部署を管理してきましたが、離職率は約30~50%でした。
これは多いのか少ないのか別としても、離職する人が多い職場というのは、仕事の内容や環境、給与や福利厚生などに問題があることが多いです。
また離職する時期も、研修期間中や給料日後などに突然辞める人もいれば、何年も働いてきたベテラン社員が辞めることもあります。
しかし、一番気をつけなければならないのは、その「何年も働いてきたベテラン社員が辞める」場合です。
ベテラン社員が辞める本当の理由と対話の重要性
これまで私が経験したフィリピンでのベテラン社員の退職理由というのは、女性であれば「家族の世話」や「親の介護」、男性であれば「転職」や「海外就労」などが多くありました。
しかし、これらは表面的な理由であり、実際には「給料が低い」、「人間関係が悪い」、「ストレスが多い」、「退職金をもらいたい」など別の理由が隠されていることが多かったです。
そして退職を希望する社員に対して、上司や管理者がしっかりと話を聞き、問題を解決する方法を一緒に考えることで、退職を思いとどまらせることができたこともありました。
つまり、退職を希望する社員の中には、「自分の悩みを聞いてほしい」という気持ちを持っている人がいます。
そしてそれを満たしてあげることで、仕事に対するモチベーションや忠誠心を高めることができます。
逆に、上司や管理者が退職理由を確認しないで「わかった」と言ってしまうと、「自分は必要とされていない」と感じてしまうかもしれません。
これでは優秀な人材が流出することになります。
離職率を下げるために経営側がすべきこと フィリピンでは人材が豊富にありますから、経営側が「辞めてもすぐに代わりが見つかる」と考えていれば、離職率が高くても問題ないでしょう。
しかし、優秀な人材を採用して育成することは時間や費用がかかりますし、その人材が競合他社に移ってしまうことは会社にとって大きな損失です。
そのため、「フィリピン人はよく辞める」のは、「辞めてもいい職場」にしてしまっていることが原因だと思います。
そのためには、経営側が以下のことを行うべきだと思います。
- 仕事の内容や環境、給与や福利厚生などを改善する。
仕事に対する満足度や報酬感を高めることで、離職の動機を減らすことができます。
- 退職を希望する社員に対して、本当の理由を聞き出す。
表面的な理由ではなく、本音を引き出すことで、問題を解決する方法を探ることができます。
- 退職を希望する社員に対して、対話や説得を行う。
自分の悩みを聞いてもらったり、仕事の意義や将来性を説明されたりすることで、退職を取りやめる可能性が高まります。
このように、フィリピン人の離職率を下げる方法とは、経営側が職場の環境や仕組みを整えることです。
フィリピン人が謝らないのは本当か?
フィリピン人は謝らないというイメージを持たれることがありますが、それは本当でしょうか?
実際には、フィリピン人は日本人と違って、謝ることが美徳だとは考えていません。
海外の多くの国でも同じように、自分のミスについて謝るという習慣はありません。
自分の正当性を主張することや言い訳することは、フィリピン人に限ったことではないのです。
しかし、フィリピン人は自尊心が強く、プライドが高いという国民性もあります。
そのため、自分が明らかに間違っていても、謝るどころか反論したり責任転嫁したりする人もいます。
これはフィリピンで働く日本人にとってはストレスになることでしょう。
私もフィリピンに来たばかりの頃は、フィリピン人が指示通りに動いてくれないことや言い訳や反論ばかりすることに怒って、「なんでフィリピン人はこうなんだ」と思っていました。
しかし、今思えばそれは私の勘違いでした。
私は管理職としての経験が浅く、人の本質を理解していませんでした。
どんな人も自分が正しいと思っています。それを無視して「相手のミスを責める」というのは効果的ではありません。
むしろ、「相手の話を聞く」というのが重要です。相手の立場になって考えて、指導することで相手も心を開いてくれます。
そして自分のミスを認めて反省してくれることもあります。
これはフィリピン人だけではなく、どんな国の人にも当てはまることです。
しかし、フィリピンで仕事をする上では特に大切なことだと思います。
私もそのように対話や説得をするようになってから、フィリピン人の仕事ぶりや態度が変わってきたのを感じました。
また、後輩たちにも「まずはひたすら我慢して相手の話を聞く」ことを教えてきました。
つまり、「フィリピン人は謝らない」のは、『相手の話を聞かない、聞こうとしない』管理側が原因となっていることもあり、まずその姿勢を改めることでフィリピン人と円滑に仕事ができるようになると思います。
まとめ
フィリピン人は家族を最優先にする国民性を持っており、仕事に対しても責任感ややりがいを持っています。
またフィリピン人の仕事に対する価値観は日本人と似ていますが、文化や習慣は異なります。そのため、フィリピンで仕事をする上では、相手の立場になって考えて、対話や説得をすることが重要です。
フィリピン人の出退勤や業績、離職率は良くも悪くもその人たちを管理、教育するフィリピン人や日本人次第です。
そのため、「フィリピン人は働かない」や「仕事が適当」などのイメージは、経営側が職場の環境や仕組みを整えることで改善できます。